2011年07月05日

タイトルに悩んだ時に読む本

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名作コピーに学ぶ読ませる文章の書き方 (日経ビジネス文庫)




「ペンシャープナー」という言葉をご存知ですか?

ペンナシャープナーとは
文章のカンを鈍らせないために読む本や、
原稿を書く前に読むお気に入りの文章
のことで
ノンフィクション作家の野村進さんが文章を
書きはじめの時に薦めている方法です。

良い文章をを読むと、がぜん奮いたたされ自分も良い文章を書きたくなります。
また、いい文章に触れると刺激を受けてペンが走り出します。

僕も企画書・チラシの原稿・WEBなどのライティングを行っているわけですが
「う~ん。書けない」というときは恐ろしいくらいあります(苦笑)

そんな時に、この本を重宝しています。文庫本サイズで持ち運びも簡単です。

著者は40年にわたって
広告の世界で活躍されてきたコピーライターの鈴木康之さん。

その鈴木さんが選んだ「名作コピー」をたくさん紹介しながら、
その「名作コピー」を構造化し解説してくれます。

コピーライターさんにはもちろんセンスは必要でしょうが
それ以上に文章との格闘を感じます。

人は、書くことと消すことで書いている
厳しいプロの世界だからこそ、何回も何回も書き直すのですね。

The LEAD stuff from pencil case
The LEAD stuff from pencil case / Christoffer Mørch



この本の中にある僕の「ペンナシャープナー」を紹介します。

この文章は、書く行為のみならず、沈みがちな気分の時、
自分を奮い立たせたい時に読む文です。

最初、読んだ時は不覚にも涙してしまいました。
(お恥ずかしい次第です)

アシックスの創業者、鬼塚喜八郎氏が亡くなられた際
2007年の日本経済新聞朝刊に掲載された長文コピーです。
それではコピー全文お読みください。


ころんだら、起きれば良い。
鬼塚喜八郎 「失敗の履歴書」


 初めてのサラリーマンの生活は戦後3年でつまづいた。
私利私欲の経営者に愛想を尽かしたからだ。

 そしてある日「もし神に祈るならば、健全な身体に健全な精神があれかしと祈るべきだ」という言葉を聞いた。スポーツは健全なる心身を育成していく最良の方法と知った。戦後の混乱期のその時、すさんだ青少年たちを早く立ち直らせるためにはスポーツが役に立つに違いない、そしてその普及こそが自分の務めだと感じた。

 そこで靴屋を始めようと思った。なぜ靴屋だったか。靴はあらゆるスポーツに欠かせないと思ったからだ。当時は大抵のスポーツがズック靴か地下足袋で代用されていた時代だった。青少年が全力で打ち込み記録が伸びるようなシューズが必要だ。使命感に目覚めた。しかし、やみくもな思いこみだけだった。どんな靴がスポーツに合うかわからない、全くの素人だった。

 初めてつくったのは、バスケットボールシューズだった。ある高校の監督からの依頼だった。新しい挑戦の仕事に心がときめいた。仕事場にこもり、見よう見まねで、連日まで作業してなんとかカタチにした。しかし、そのシューズを届けると、わらじのようだち床にたたきつけられた。練習場で球拾いをしながら、選手の足を見ながら選手ひとりひとりから意見や注文を聞きながら改良に改良を重ねた。しかし、グリップの悪さだけはどうにもならなかった。

 夏のある日、母親がキュウリの酢の物を作ってくれた。この原理を靴底に応用すればいいかもしれないと思った。そして吸着盤型のバスケットボールシューズが生まれた。しかしそのシューズはグリップが効き過ぎてひっくり返る選手が続出した。吸盤のくぼみを浅くして、ようやく急発進、急停車どちらも可能な鬼塚式タイガーバスケットボールシューズが完成した。
そのシューズを履いた高校のチームが優勝したのは、それから遠い日のことではなかった。

 品質に自信があるシューズが生まれた。しかし知名度がまったくなかった。販路もなかった。自ら行商に出た。地方を回った。旅館に泊まらず駅のベンチで寝た。ろくな物を食べてなかった。
 やがて結核にかかった。即入院を勧告された。当時は治療薬がなかったが、なんともタイミング良く新薬が出て健康を取り戻した。体調が良くなると前向きになった。競技用のシューズの種類を増やしていった。しかしまた1年後結核菌が見つかった。今度は死の宣告にも等しい診断を受けた。会社の4畳半の宿直室にふとんを敷き、闘病生活が始まった。喉まで結核菌に侵され声帯が破壊されて声が出なくなった。毎朝社員を病床に呼び、言いたいことを紙に書いて仕事を続けていった。死期が近づいていることを感じた。するとまた新薬が開発された。熱が引き、声も出始めた。実に2度までも新薬に助けられるという幸運に恵まれた。この時、スポーツシューズづくりにすべてを尽くそうと改めて強く決意した。

 次はマラソンシューズの開発に没頭した。走るとマメができて当然。マメを克服してこそ1流と言う時代だった。しかしマメができないシューズがあれば、もっといい記録が出るはずだと考えた。当時のトップランナーに「そんなシューズができたら逆立ちしてマラソンして見せますよ」と言われた。
 さっそくマラソンに関する文献を貪り読んだ。欧米の研究書や日本の特許もくまなく調べた。しかしまだ科学的に研究されていない時代であり、答えはどこにも見つからなかった。

 ある風呂場で何とはなしに自分の足を眺めていて、はっと気がついた。人間のカラダのことは靴屋がいくら考えてもダメだ。肉体のことは医者がよく知っているに違いないと大学の医学部の教授のもとへ走った。マメは火傷と同じ現象だと言うことを知った。衝撃熱を冷やし、足の裏の炎症をいかにして軽くするかという具体的な課題を得た。そしてヒントは意外なところにころがっていた。タクシーに乗った時、エンジンが加熱して動かなくなってしまったのだ。運転手がラジエーターみ水をを補給するのを忘れていたことが原因だった。その時、足も水で冷やせばよいと思った。

 さっそくこのアイディアで新しいシューズづくりに取りかかったが結果は散々だった。シューズの底に水を入れると、足が重くなり、しかもふやけてしまう。水冷式がダメなら、空冷式だと方針を転換した。シューズの上部に目の粗い布を使い、前と横にいっぱい穴をあけて風通しをよくした。着地した時、熱い空気が吐き出され、足が地面から離れると冷たい空気が流れ込むという空気入れ替え式構造のシューズが出来上がった。
 逆立ちしてマラソンして見せますよと言った選手に試してもらった。30キロではほとんど異常はない。42.195キロ完走しても、足の裏は少し赤くなった程度で、とうとうマメはできなかった。その選手は信じられないという表情でいつまでも自分の足をながめていた。

 何かを始めたらトコトンやらなければ気がすまなかった。ムズカシイものから始めれば、後は何でもできるが口癖だった。だますより、だまされるほうがいい。人に愚直の見本と言われた。面白みがないのは性分と居直ってきた。なんでも食べ、どこでもよく寝て、くよくよしなかった。まっ正直に生きてきた。走りに走り続けてきた89年だった。不器用な人生だった。最後まで頑固な靴屋の親父だった。周囲を幸せにして初めて自分も幸せになれる。会社を家族的運命共同体と呼んだ。その家族の父が、2007年9月29日、突然この世から消えた。

 鬼塚喜八郎は、毎年新入社員を前にして、古代から近代へと引き継がれたスポーツマン精神の5か条を、いつも高らかに読み上げていた。

【第1条】
スポーツマンは、常にルールを守り、仲間に対して不審な行動をとらない。
【第2条】
スポーツマンは礼儀を重んじ、フェアープレーの精神に徹し、いかなる相手もあなどらず、たじろかず、威張らず、不正を憎み、正々堂々と尋常に勝負する
【第3条】
スポーツマンは、絶えず自己のベストを尽くし、最後まで戦う
【第4条】
スポーツマンは、チームの一員として時には犠牲的精神を発揮し、チームが最高の勝利を得るために戦わなければならない。そこに信頼する良き友を得る。
【第5条】
スポーツマンは常に健康に留意し、絶えず練習の体験を積み重ね、人間能力の限界を拡大し、いついかなる時でもタイミング良く全力を発揮する習慣を養うことが必要である。

 戦後の混乱期、スポーツの意味することが、これからの生活、社会、ビジネスなどのあらゆる場面に必要になると感じた鬼塚喜八郎。人間の価値基準や行動基準が変わり、人々が穏やかな気持ちで過ごすことが困難になりつつある昨今、ここで定義されているスポーツマンは、確かに、現代を生きるすべての人の道しるべになると思う。

 そして、ここに新たな条項をひとつ、加えたい。

【第6条】
スポーツマンは、ころんだら、起きあがればよい。
失敗しても成功するまでやればよい。

コピーライター|松木圭三さん作品 より




松木さんに脱帽!!読んでて励まされる文章はそう滅多にありません。
この話を誰かに伝えたい気持ちでいっぱいになりました。

この、伝えいたい気持ちこそが
書く力の源であり、欠かせないものかもしれません。

気持ちを奮い立たせるペンナシャープナー

あなたにはありますか?



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Posted by 図案屋  at 19:00 │Comments(0)PR・コミュケーション

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